えのログ

人生五里霧中

オカルトなき現代に舞い降りたメリーさんと性格診断

インターネットのオカルトが持つ神秘性は個人的な感想で言うと、物凄い勢いで消えている気がする。
匿名掲示板文化に触れなくなったからか、画面の向こう側にいる人間のバックボーンをツイッターなどではあっさりと知ることが出来るからかもしれない。
『この事件について書き込みをしている奴の安否はわからない』とか『この書き込みをしている人間は本当に"人間"なの?』みたいな不安感が消えてしまった。
都市伝説とかホラー映画もそうだ、メリーさんは固定電話から携帯電話に移行したため過労死寸前、貞子はビデオから動画サイトに移行出来る現代的なフットワークから恐怖以上に出来るホラーパーソン感が、伽倻子は「家なんて買わねーよ、俺」みたいな気持ちが湧いてきてしまい、得体の知れない恐怖は死んでしまった。

それはそれとして最近自分のタイムラインが恐怖に陥ったものがある。
性格診断だ。

 

 性格診断は怖い。
徹底的にメンタルフルボッコだ。
自分で診断に答えてその結果を持って人格を計られ、ダメ出しをされるのだ。
自ら答えている以上逃れられぬ絶望、オークの前の女騎士といった様相だ。

案の定タイムラインもえのきも結果にへこんでいた。
えのきは劣等感だらけなのに自分大好きなものだからこういうものに気軽に手を出して勝手に大ダメージを食らう、まさに女騎士。きっと前世はたくさんオークを殺したのだろう、許せオーク。

そこでふと思う、オカルトがオカルトのまま恐怖を与えられなくなっても性格診断だとか別の恐怖と組めばこれまで以上の恐怖を世に届けられるのではないか。
トータルソリューションである。


メリーさん×性格診断

もはや文字列で最強タッグ感が湧いてきた。

メリーさんは凄い。どれだけ凄いかこのブログを読んでいる人に届けたいと思う。

ある日えのきの携帯に電話がかかってくるわけだ。
午後8時、スマートフォンの画面に『メリーさん』と表示される。えのきはもしかしなくても残業中だった。恐ろしい。残業も怖いが疲れからか「あー仕事疲れた…疲れた……んん……?メリーさん…?都市伝説も大変だなぁ…」などと疲れから不用意に電話に出てきてしまうわけだ。

「もしもし わたしメリーさん」

一気に冷や汗が吹き出す。
この世ではない、聞いてはいけないものを聞いた感覚にとらわれる。けれど不思議とスマホを手放せず言葉を聞いてしまうわけだ。
流石メリーさん、舐められていようとベテランの貫禄は違う。

「ええ、あ、はい!えのきですけど」

動揺のあまり名乗ってしまう。もはや呪いをかけられる条件フルコンプリートだがメリーさんは焦らない。焦らずこう続けるのだ。

「私メリーさん、人の言葉をさえぎって、自分の考えを述べることがありますか?」
「えっ」
「私メリーさん」
「……」
「人の言葉をさえぎって、自分の考えを述べることがありますか?」
「は、はい」

こうなったが最後、えのきはメリーさんの術中にはまっている。

「私メリーさん、他人に対して思いやりの気持ちが強い方ですか」
「私メリーさん、自分の損得を考えて行動する方ですか」

質問は続いていく。伊達に怖い話のレギュラーメンバーとして無差別テレアポをしていない、メリーさんの矢継ぎ早な質問に僕は答えるがままとなっていた。

「私メリーさん、いまあなたの会社の前にいるの」
「はい、えええ!!??」

ここまできて初めてその状況のヤバさを知る。
性格診断に夢中でメリーさんが近づいていることに気がつかなかったのだ。

「私メリーさん」
「はい……」
「あなたの後ろからあなたの性格を診断するの」

戦慄、心臓を素手で掴まれたかのような感覚に貫かれる。

「あなたって、他人によく思われようとしてばっかね、それで結局人と人の板挟みで疲れてる」
 
初手クリティカルに泣きそうになる。なんて恐ろしい都市伝説なんだメリーさん。

「相手の都合を優先して振り回される、合わせた結果図に乗られて最悪の展開になっていく」
「はい……」
「全く主体性がないのが原因ね、相手の都合を優先するほどあなたは報われないし追い詰められていくわ。
 本当振り回されて疲れて何にも結果がでないパターンね」

メンタルクラッシュ、えのきのメンタルはもうボロボロだ。なんなら会社のデスクだというのに号泣している。
もういっそ殺してほしい。メリーさんにまさかメンタルを殺されるとは思っていなかった。
その時にはすでに、これからのことはもう覚悟していた。
 
メリーさんは僕を殺すのだろう。
僕が読んだメリーさんの話で、語り手がどうなったかは語られていなかった。
メリーさんが背後にいるというところでそのお話はプツリ、と終わっていた。
だから、きっとそうなるのだろう。
 
目を閉じて、その時を待った。
これは労災になるのだろうか。
しかし、待てども待てどもその時はやってこない。
 
「……でも、私が言えたことじゃないのかもね」
「え……?」

メリーさんの声は先ほどまでよりずっと小さく、細いものになっていた。

「来る日も来る日も電話をかけてばかり、それでうまくいっていた時もあるけど今じゃスマートフォンが主流、自宅に電話がない人も少なくない」
「僕も家だとスマホしか使ってない」
「ずっとなりたかった都市伝説のトップの一角になれたのに、現代社会の進歩であっという間に時代遅れ。私、何のために青春を賭けたのかしら」
「……で、電話だけに、痛い!スマホの角で殴らないで!痛い!」
 
ネタ振りだと思ったのだ、うまいこと言いたくなってしまったのだ。背後からガツンガツンと叩かれた。怪異ではなく物理で死んでしまいそうだった。
 
「私、メリーさんになる前にこの診断をやったの」
「なる前」
「私の診断結果、あなたと全く一緒だったわ。そんなんだからいつも人にバカにされて、全員呪い殺してやろうと思ったの」
「メリーさんなれるんですか、マジで」
プリキュアになりたい人はいっぱいいるでしょう。それこそ老若男女問わず。メリーさんも同じよ。誰だってなれる。襲名制だから」
「襲名制」
「襲名制なの、メリーさん」

知らなかった、そんなの。
『人は誰かになれる』はドラクエ7のコピーだったか。
メリーさんにまでなれるだなんて。
 
「だけど、結局変わらなかった。私、少女の格好だから他の都市伝説に舐められるのよね……
 八尺なんてネットで生まれた後輩なのに身長が私より高いからって小馬鹿にしてくるの……
 『固定電話とか古くないですか、ヤマノケさんとかほぼノータイムで乗っ取りですよ、
 コスト意識とかメリー先輩も持った方がいいんじゃないですか?』って……」
「八尺様そんなキャラなの」
「私、電話で相手してもらえないと仕掛けられないから毎日毎日電話してるんだけど、最近知らない番号出てくれる人が減ってね……ナンバーディスプレイ作った人間が憎いわ、きっとナンバーディスプレイみたいに嫌な性格なのよ。
 私も他のオカルト話みたいにノータイムで突っ込めたらよかったのに……昔仲よかった貞子先輩はどんどん色々な方法開拓したりファン層拡大してるのにいつも私は残業してばっかで、久しぶりに引っかかったと思ったらそいつも残業中のサラリーマンだなんて……」
 
ショックだ。怖かった都市伝説やオカルト話が妙に世知辛い。居酒屋で愚痴を聞いているような気分だ。
一升瓶を片手に金髪の少女が荒れている光景を思い浮かべる。思わず振り返って死にたくなったが我慢した。
 
「バカなこと言っちゃったわね……あなたが同じ診断で、勝手にシンパシー感じて、また恐怖与えられなかった。
 私、転職しようかしら……きっと、時代にあってないのよ……」
 
延々と愚痴が続いていく、性格診断なんて変なものを武器に使うくらいメリーさんも悩んでいたんだろう。
 
だけど、僕は伝えたかった。
メリーさんという都市伝説に、僕の背後にいる存在に。
 メリーさんの活動が無駄じゃなかったことを、メリーさんが凄いってことを。
 
「メリーさん、僕はメリーさんのこと本当に凄い都市伝説だと思ってますよ」
「何言ってるの、こんな情けない都市伝説に……」
「だってそんな諦めながらでもメリーさんはメリーさんをやっているじゃないですか」
「そんなの当然よ、今更辞められるものじゃないもの。生き方なんだもの」
「それが凄いんですよ。僕は小学生の時、メリーさんが怖くてしょうがなかった。なんなら今だって震えている。
 僕、会社に入って知ったんですよ。知らない人に電話をかけるのってのは簡単なことじゃない。
それにメリーさんは一人に丁寧に何回もかけなくちゃいけない。体験してわかったんです、あれは誰にでもできることじゃない。
長い年月をかけて磨いてきた熟練の技術があってメリーさんはメリーさんでいられるんだ」
 
八尺様は怖いかもしれない、ヤマノケも怖いかもしれない。
でも、昔から一人、ただ一人で技術を磨いて、今なお新しい恐怖を作ろうとしているメリーさんが劣っているわけがない。
僕の声は震えていた。だけど、それでも言葉が続いていく。背後にいる都市伝説に僕は語り続ける。
 
「今日だってそうだ、性格診断なんて僕のメンタルフルボッコですよ。なんなら色々な人に診断結果を理由に愚痴をこぼしますよ、日常的に思い出して勝手にヘコみますよ」
「……」
「メリーさんは凄いよ、僕にはできなかったんだ」
「……」
「僕みたいななんでもない、こんな会社員になってない。
 自分のことをやりきって、こうしてトップの都市伝説になっているなんて凄い、本当に凄いですよ」
 
言い終えた後、僕の喉はカラカラで、妙に熱っぽかった。
残業で疲れて体調を崩したのかもしれなかった。
机に頭をぶつけるように倒れこむ。もしかしたらインフルエンザかもしれなかった。
それでも僕は伝えたかった。もうオカルトもソースを求められて消えかけている時代に、それでもかつて彼女は都市伝説に上り詰めたのだ。
だから伝えることを伝えて、殺されるのならーーそれも良いと思ったのだった。
 
「メリー……さん……?」
 
そう思ったのだけど、待てども待てどもその時はやってこなかった。
背後に気配は残っているというのに、何も変化が訪れない。
 
「私メリーさん、全然大したことないの」
 
額に何か冷たいものが触れた気がしたーー
 
* * *
 
スマートフォンの着信音で叩き起こされる。
目が覚めたのは自室のベッドだった。スーツは着っぱなしで、どうやって会社から帰ったのかも覚えていない。
 
「え、何この時間、何!」
 
すでに遅刻寸前だった。
 大急ぎで身支度を済ませて家に出る時、気がついた。
「なんか、めっちゃ体調いいな今日……」
 
会社へと向かいながら、昨夜のことを思い出す。
メリーさんはいたんだろうか、それとも残業の果てにみた妄想だったんだろうか。
スマートフォンの画面を改めてみると朝の自分を起こした非通知での着信履歴と診断結果だけが残されていて、
会社に行くとあんなにあった仕事は全て片付いていた。
会社の机の上に缶コーヒーが一本、メモ書きと共に残っていた。
 
『私メリーさん、あなたの職場にいたの』
 
メリーさんは凄い、そう思った。
 

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《完》