えのログ

人生五里霧中

天天天一超麺してる

神は天一の姿をしている。

 

神は天一の姿をしている。

ツイン照子は僕がいくら天一を進めても食べてなんてくれない。

「あんなヘドロみたいなもんよく食えるわよねあんた」

ヘドロとは失礼なことを言うなんて思いながらヘドロとわかるということはツイン照子は過去に天一を食べたのかなんてことを考える。
天一というものは親密さになった友人だとか恋人同士で食べるものでツイン照子が自分以外にそういう天一を食べる仲間なのか恋人がいたであろうことにギエーンとなるけれど僕も神々との戦いに駆り出された戦士であるしツイン照子はそのパートナーなのだからそんなことを掘り返して喧嘩をしたくないから僕は黙って一人で天一に行く。
天一の周りは土砂降りで、出店になった天一で僕は白飯定食を頼んでこってりしたスープを待つ。天一を食べるというのは精神的なリストカットで緩やかな自殺だ。野菜を溶かし込んでいるなんていうけれど僕はラー油も入れるし味に飽きればラーメンだれも入れる。不健康を体に蓄えるようなものでビリビリとした舌への刺激を美味しいと錯覚したりする。でも、そんな風に自分の体は壊れていくべきなのだ。こんなどうしようもない神々との戦闘の中で変にまともを維持しようなんてする方がきっとまともじゃないのだ。

神々が現れたのはこの世界の科学技術がある種の極致に達した時だった。
サイバネティクス技術で人間のあらゆる部分は代替が効き、人と機械の境界線が消滅しそうな時に神はこの世界に降り立った。
きっとそれは世界のリセットなのだ。神々はこの世界の狭量さから生まれた機構で、僕らはそれに本来ならなすすべなく無かったことにされるのだろう。
神々のことをある人は美しい女に見えたというしある人は婚約者の姿に見えたというしある人は買ったばかりの新車に見えたというしあるものはガンダムに見えたという。

神というのは人々の心の中を映し出す鏡なのだ。僕が見た神々は天下一品だった。それだけのことだ。
神々との戦いはサイバネティクス技術によるパートナーとの遠隔神経接続および脳神機通信と神殺兵装を身につけたツーマンセルで行われる。
僕達『サイバネ救世主部隊』は成層圏を飛びまくり、遠隔神経接続によってパートナーと連携して神を殺す。
神々の姿は人それぞれなもんだから正確な位置把握なんて出来やしない。大雑把な位置指定で神殺兵器をぶっ刺して「みょみょみょちょーーーー」みたいな耳障りな何かを擦るような音を聞いて撤退する。きっとそれが神々の悲鳴なんだと僕やツイン照子は思っていた。

僕はもうパートナーを何人も変えていて、というか僕のパートナー、つまり僕と組んだ人間は簡単に死んでしまっているようだった。出撃、出撃、出撃、パートナーが死ぬ。出撃、出撃、パートナーが死ぬ。神経接続しているもんだから死ぬ直前の感情と痛みがダイレクトに流れ込んで僕ばぐぎぎょーって叫びながら基地へ舞い戻っておいおいと泣く。
最後に失ったパートナーは僕よりも年下だったかもしれないし、年上だったかもしれない。でも、僕はもう彼女の顔も名前も覚えていない。神々は存在を消してしまう。すぐに全てが消えるわけではないけれど、命が消えたことを起点にあっという間に殺された人の存在は消えていく。

ただの死は人を過去形にするだけだけど、神々による粛清は人の存在自体を消してしまう。

僕が死神なのかそれともたまたまなのか、どうにか僕は生き残って戦場で何かを失ったらすぐに僕は部屋の柱に傷を付ける。七つの傷があって、僕が7人のパートナーを失ったことを毎夜毎朝僕は知りなおす。ありゃーなんだっけなこれ、こんな傷わけわかんね、きもいわり、さっさと消そうかなってなって横に書いてある文字を読む。
「パートナーを忘れるな」
僕は柱の傷を消すためのヤスリをカランと落として泣き崩れる。ごめんごめんごめんごめん、覚えてなくてごめん。誰がパートナーだったのかも、誰が死んだのかもわからなくってごめん。そんな風にかつていたであろう7人分のパートナーの残像に懺悔して僕はツイン照子と出撃する。なんとか帰る。ツイン照子を天一に誘う。断られる。

僕は天一を食べたいだけじゃなくてツイン照子と天一を通して何かを得たくて天一に行きたいもんだからどうしようもなく悲しくなって白飯定食に餃子を追加してしまう。死ぬ、明日にはみんな死んでるかもしれない。神々の襲撃は日に日に激しくなっていて、明日死んでいるのは僕かもしれないしツイン照子かもしれない。
夜になるとツイン照子は僕の部屋にやってきて僕の上に跨って、いってしまうと性行為だとかそういう行為を要求してきて肌を重ねる。僕は全くもって経験なしの甲斐性なしで僕はツイン照子にそんな風に精神の平穏を保ってもらう。

「どうして天一行ってくれないんだよ、頼むよ」「むしろあんたなんでそんなに拘るのよ」「わからないけど衝動なんだよ」「はあ?ばかじゃない?」「ばかじゃねーよめっちゃ必死なんだよ衝動なんだ」

そう、衝動だ。僕は天一の衝動に突き動かされている。だから自分でも説明できない衝動をツイン照子にわかって欲しくてこうして懇願をする。
でも、僕の衝動はツイン照子の衝動と違うからツイン照子は天一に行ってはくれない。
 
「だいたいあんた、きっとこういうことしたのも初めてじゃないわよ」「こういうことって」「いまやってること全部、壁で見てれば」
 
そして僕は壁の七つの傷をみる。もしかすると僕はそういうことを記録するような人間なんだろうか。自分の卑近なことを平気で記録してしまうんだろうか。それなのに神に全部奪われて平気で忘れてのうのうと生きているんだろうか。ツイン照子以外も平気で天一に誘っていたのだろうか。僕はそんなことを考えてうわあうわあと泣き叫ぶ。自分が何も覚えていない罪深さと、何が悲しいのかももうわからないことに悲しくなって泣いている。ツイン照子はそんな僕に寄り添って夜が明けてまた出撃をする。
 
そんなことを考えて日々を過ごしているうちに神々との戦いでツイン照子は死ぬ。正確には死んでいる感覚が僕に流れ込んでくる、遠隔神経接続を通じてツイン照子が消えていくのを感じる。
ツイン照子のツインテールが消える。彼女との訓練の記憶が消える。その前の神々との戦闘前から僕は彼女とたわいもないことを話していた記憶が砕け散ってミキサーにかけられるみたいに消えていく。
僕のパートナーが目の前で天一に飲まれていく様をみて、僕はずっとこれを怖がっていたことを知る。誰かが神々に、天一に殺される様を見ることが怖くてそれを克服したくてずっと天一に誰かと行きたがっていたことを知る。
 
《でも、そんなのかわいそうじゃない。》
 
誰かの脳神機通信が流れ込んで僕は涙を流しながら神に向かって最大出力を放ってみょみょみょーんという神々の断末魔を聞く。
 
その日は結局大惨劇で、出撃前から減った人員を数えると多くの仲間が死んだらしいことがわかった。だけど誰が消えてしまったのかなんて僕にはわからないし、誰がいたかも覚えてないし結局失ったことを忘れないようにだけ各々でしてみんな日常に戻っていく。僕は全部忘れたいもんだから壁に傷をつけないで布団でうずくまって三日間ぐらい寝続けてすっかり元気になる。僕は新しいパートナーと神を殺す。天下一品の「また明日もお待ちしています」みたいな丼の文字に終わりのない戦いを感じながらパートナーと神々をぶち殺す。
そうして僕は今日もお昼に天一白飯定食を頼んでこってりしたスープを待つ。パートナーの後輩がぶーたれて僕はなんとなしに反論したりする。
 
「先輩こんなの食べるのってどうかしてると思いますよ、ヘドロじゃないですか」「わけわかんねーよこれが天一なんだよ」「わたし食べないですよ」「食わせねーよむしろなんでついてきたんだお前」「先輩と昼食べたかったのに先輩が天一なんていくから」「天一ってのは衝動なんだよ、衝動……」
 
そういって僕はボロボロ涙を流す。
誰かここにこなかったことを思い出す。僕が何か大切だったものを忘れていることを思い出す。僕の部屋の柱の傷は7のままなのにその前とはどうしようもない喪失感を思い出す。
誰が天一に行ってくれなかったんだろう。誰かと行こうとして結局行けなかったことを思い出す。
 
「え、天一、嫌がられるのそんな嫌でした?先輩そんな泣いてどうしたんです」
「わからん、ぜんぜんわからん」
 
こってりは何度水増ししたところでこってりで何かを失う感覚はいくら水増ししても消えないことを知る。僕は天一に連れて行けなかった誰かを天一にも本当のところ戦場にも連れて行きたくなかったことを知る。
人が死ぬというのはそういうことだ。いくら予行練習をしてもどうしようもないことだ。僕は天一をいくら食べたところで天一を通じて感じる悲しみにも慣れることはないし失ったものを取り戻すことはないことを知る。
そうして僕は天一を食べることをやめて天一の姿をした神々をぶっ殺すことだけに集中する。
今日もパートナーの後輩と僕は遠隔神経接続をして空へ飛ぶ。
「おい後輩おい」「なんですか先輩」「死なないでくれ、頼む」「天一以外に連れて行ってくれるなら頑張ります」
そうして僕は神殺兵装を振りかざす。きっと今日も生き残る。
 
《完》
 
なんか好き好き大好き超愛してる読み返したんだ……わけわかんないけど面白いのでみんな読んで。

 

好き好き大好き超愛してる。 (講談社文庫)

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