えのログ

人生五里霧中

女騎士さんと松屋に行ってきた話

先日、女騎士さんと松屋に行ってきた。

松屋フーズ|牛めし(牛丼)、カレー、定食、その他丼物でおなじみの松屋をはじめ、とんかつ業態、鮨業態、ラーメン業態、カフェ業態を運営

 

このブログを熱心に読んでくれている奇特な方は知っていると思うが、少し前に女騎士さんがウチに転がり込んできた。
ある日、仕事に疲れて家でゴロゴロしていたら急に部屋の天井あたりがグネングネンと空間が歪み、女騎士が落ちてきたのだ。女騎士さんの女騎士アーマーでえのきは普通に怪我をした、めっちゃ痛い。
 
女騎士さんは『ジョナサン・サイゼ・ガスト王国』の王国騎士団の栄誉ある騎士なのだけど、王家の秘宝と呼ばれる『チーズバーグディッシュ宝玉』を運んでいる際に、チーズバーグディッシュ宝玉が怪しく輝き気がついたら僕の家に異世界転移していたというわけだ。
誇り高き女騎士なのでえのきの上に落ちてきた時は僕が怪我しているというのに
「な、なんだ貴様は! さては敵国の呪術師か!? ええい、この誇り高きジサガ騎士団(ジョナサン・サイゼ・ガストの略称)の騎士として決して貴様のような卑劣漢に屈するものか!」
と剣を振り回し、えのき部屋のありとあらゆるオタクグッズに軽傷を与え僕を悲しみに沈めた。
「ち、違いますよぉ……女騎士さんがいきなり落ちてきたのに……」
「お、堕ちるだと!?破廉恥な!この誇り高きジサガ騎士団がたとえ地獄にこの身を投じようと精神が堕ちるわけなどないだろう!」
なんてやりとりをしてから早数ヶ月、最近の女騎士さんは見るに堪えない。
 
ある日、ハーフパンツ、Tシャツ姿の女騎士さんが言った。
 
「インターネット……素晴らしい……」
 
女騎士さんは僕が会社から帰ってくるともっぱら家でゴロゴロしながら僕のパソコンと解約したiPhone6を二つ使い、一つをネットサーフィン用、一つをBGM再生用にしながらネットサーフィンに興じている。
 
コンビニで買った夕飯をレンジで温めながら、女騎士さんが来たばかりのことを思い出す。
 
ーーふん、こんな俗世、すぐに帰る手段を見つけておさらばしてやろう
ーー誇り高き騎士として俗世間の娯楽に興じるのは精神の堕落だ
ーーえのき、貴様「朝に弱い」だなどと甘えをいうな。私が騎士団にいる時は朝の鍛錬を怠らなかったものだ……
 
そんな過去の女騎士さんの発言が浮かんでは消えていく。
 
「このはてな匿名だいありぃ、というのは面白いな……」
 
今の女騎士さんは、堕落している。
誇り高き女騎士ならはてな匿名ダイアリーなんてかつての2ちゃん並みの俗世間の悪い面の塊みたいな物を見ないでほしい、お願いだから。
 
朝は12時過ぎに起床、僕がAmazonで買い込んだカップ焼きそばだとか、近所のローソンで買って来た冷凍食品ばかり食べて一日中ネットサーフィンをしている。この間なんて、モニターを見つめながら「女騎士ばーちゃるゆーちゅーばー……アリだな!」とか独り言を言いだしていた。誇り高き騎士はどこへ行ったんだ。
 
「女騎士さん!」
 
えのきといえどキレる、ただ怠けているからじゃない。
誇り高き女騎士さんがこんな即堕ち2コマを余裕で体現してしまうその安直さに憤っているのだ。
 
「おお、えのきか!今日見つけたこの動画が面白くてだな……」
 
寝返りをうってえのきに気づく女騎士さんは怠惰そのものだった。
 
ーー取り戻してもらう、その誇り高き精神を。
 
「女騎士さん、出かけますよ。すぐに」
「え、ちょっと待ってくれ、今日はばーちゃるゆーちゅーばーの配信が……」
「回線引っこ抜きますよ!?」
「ま、待ってくれぇぇぇぇぇ!くっ卑怯なぁぁぁぁぁ!!」
 
そうして女騎士さんを強引に引きづり出した。
かつての女騎士さんならまだしも穀潰しと化した女騎士さんに対してはイニシアチブはえのきにあるのだ。
 
▼▼▼
 
やってきた。この世のプレミアムを教えてくれる約束の場所、松屋
我が家から徒歩15分、完全前金制、老若男女問わずその門は開かれており、その門を叩いたものには平等にプレミアムの音を聴かせるという……
そんな、松屋に女騎士さんを連れてきたのだ。
 
「おい、えのき!この松屋とやらすごいな!500円以上のめにゅーがたくさんあるぞ!しかもこの、ぷれみあむ、という単語……なにやら高潔な響きがするな……もしやこれは貴族の食事なのか……?」
 
女騎士さんが食べているものはインスタントなものばかりでせいぜい300円程度のものばかりなのだ。そんなものばかり食べているのに不思議と太らず健康状態もよく、肌もツヤツヤというのだから女騎士は強い、すごい強い。
 
プレミアム牛丼ーーたしかにそれは素晴らしいメニューだ。
どのような絶望の世界でも、混迷を極める現代であっても、それでも松屋の牛丼は”プレミアム”というものを教えてくれる。
 
よい、松屋だった。
 
誰もがそう、胸に想いを秘めてその場を去る。
それが、松屋だ。
それが、プレミアム牛丼だ。
 
ーーしかし、今日、女騎士さんに食べてもらうものはそれではない。
 
「こ、この物体はどうやって使うのだ……?えのき、”こんびにのれじ”というのとは全然違うぞ!」
「こう、するんですよ」
 
選択の余地など、与えない。
悩むことなく食券を買って女騎士さんを店内に引きづり込む。
「イラッシャイマセー!」
「これで」
「カシコマリマシター」
海外からきたであろう定員さんの片言の挨拶で、注文が完了する。
 
「お、おい、えのき、この食事の場はなんなのだ……えのきの家とは違った気配がする……」
「そうですよ女騎士さん、ここには女騎士さんが失ったものがある」
「失ったものだと?」
「ええ、今のインターネットに染まりきった女騎士さんが失ったものがね……」
「ふ、私も見くびられたものだな!このジサガ騎士団の騎士たる私が失ったものなどあるわけがないだろう!」
「それをこれから食べるものを食べた後も言えるものか……」
 
えのきはメガネをクイってする。気持ちとしては悪役である。
 
「見縊るなよえのき!この誇り高き騎士である私がたかが食事に屈するなど絶対にあるわけがない!食の誘惑など、私は絶対に屈しない!」
 
ーーそして、刻(とき) はきた。
 
着丼、それはかつて松屋から失われた古のメニュー。

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ビビン丼である。
かつてのビビン丼ではない、新ビビン丼である。
 
「ほお……なかなか面白い匂いだ……では女騎士!参る!
 ーーいただきます」
 
余談だが、女騎士さんはちゃんと「いただきます」というマナーはある。女騎士さんの名誉のために。
 
「どれどれ……」
 
ーーそして、戦慄。
 
「こ、これは……!!!」
 
女騎士さんが崩れ落ちそうになるのを踏みとどまる。
 
「どうしましたか女騎士さん、様子がおかしいようですがねえ」
「くっ……なんだこの”びびん丼”とやらは……野菜、肉、なんかからいやつが絡まりあって私の何かを刺激してくる……」
「一口目の刺激で痺れあがるなんて、誇り高き女騎士さんもたいしたことがないのでは!?」
 
思わず言葉に力がこもる。
 
「ふ、ふん!そんなわけがないだろう、この程度の食事は軽々と完食しt……」
 
女騎士さん、一口、また一口と食べるたびに顔色が変わっていく。
その味に秘められた熱き歴史に、心が動かされているのだ。
 
「す、すごい!このビビン丼!すごい!!」
 
目の前で物凄い勢いでビビン丼を食べていく女騎士さん。
もはや虚勢を張る余裕すらなくビビン丼に無我夢中になっている。
 
ーー堕ちたな。
 
そう、僕は確信して女騎士さんが食べ終わるのを待った。
そして十数分後。
 
「くっ……殺せ(ごちそうさま)」
 
完全に目からハイライトの消えた女騎士さんがいた。
松屋の新ビビン丼の魔力に屈したのだ。今の女騎士さんはもはや松屋に抗えぬ松屋の傀儡と化したのだ。
 
「女騎士さん、松屋にまた来たいですか?」
「は、はい……来たいです……」
 
もはや反抗する気力も女騎士さんには残っていないのだ。
松屋の魔力というのはそれだけ強大なのだ。
 
ーーそれでも、伝えておかないといけないことがあった。
 
「女騎士さん、今日女騎士さんが食べたビビン丼は、挫折の真っ只中なんです」
「なに……?」
「ビビン丼は、今のビビン丼は人々に嘲笑されている存在です」
「ば、バカな!こんなに美味しいビビン丼が!」
「そのデュエルを失った、そう言われています。」
 
女騎士さんが俯く。
だが、ただ屈する女騎士さんとしての姿としてではなかった。かつて見せた誇りの片鱗がその振る舞いにはあった。
 
「でも、僕はそうは思いません。ビビン丼は戦っている」
「戦って…いる……?」
「ええ、たしかに全盛期の力はないかもしれない。あの時の輝きは今のビビン丼に出せない、それは覆りようのない事実かもしれません」
「……」
「それでも、ビビン丼はビビン丼として存在(あ)るんですよ、松屋にね」
「ビビン丼がビビン丼として、ある」
「それが、ビビン丼が失っていない”誇り”です」
 
そう、ビビン丼はたしかに変わった。
それでも、それでもビビン丼はその誇りを忘れず、バカにされようと立っているのだ、戦っているのだーー松屋という戦場で。
 
「……ッッッ!!!!!!!」
 
女騎士さんが衝撃を受けた表情をする。
伝えたいことを理解してくれたのかもしれない。
 
「女騎士さん、ビビン丼は逆境の中でもその精神を忘れていません。それなのに、それなのに女騎士さん!あなたは!!」
 
えのきは叫んだ。
うるさくて迷惑だったので松屋からは追い出された。
 
▼▼▼
 
「熱くなりすぎた……」
 
えのきは家で頭を抱えていた。
女騎士さんを諭すつもりが松屋への想いが暴走して話が中途半端になってしまった。
これでは女騎士さんは結局堕落した生活のまま……
 
「えのき」
 
そう声をかけられ、振り返ると甲冑に身を包んだ女騎士さんがいた。
さっきまでのハーフパンツにTシャツ姿とは違い、我が家に転移してきたような甲冑姿だった。
 
「お、女騎士さん!」
「すまなかったな、えのき。私は自分を見失っていたようだ……どんな時代、どんな世界であっても私は騎士だ、そうであるということをあのビビン丼は気づかせてくれたよ……」
「女騎士さん!」
「私はーー誇り高きジサガ騎士団の騎士だ」
 
想いが、通じた。
感動で身悶えした。
こんな時こそ、あの言葉をいうべきなのだろう。
 
ーー良い松屋だった。
 
▼▼▼
 
「それで、女騎士さんが今では松屋についてインターネットで激論を交わしているってわけね」
 
呆れた表情でえのきの幼なじみのツインテール概念美少女のツイン照子が言う。
 
「うん……旧ビビン丼を褒め称える人間に理解させるって……」
「私から見ると、ネット依存が悪化しているように見えるんだけど」
「はい……」
「あなた、松屋でノリノリでビビン丼頼んだだけじゃないの?」
「はい……」
 
回転する椅子でくるくる回りながら小馬鹿にしてくるツイン照子に言われっぱなしで僕は頭を抱えていた。
変な方向で女騎士さんを悪化させてしまった……
 
「おいえのき!この5ちゃんねるとかいう場所、わからずやばかりだ!お前も言ってやってくれ!!」
 
女騎士さんが僕を呼ぶ。
それは、ハーフパンツにTシャツ姿のめちゃくちゃ良い笑顔の女騎士さんだった。
 
《完》