えのログ

人生五里霧中

海の日なので海に行ったりした話

夏。
 
圧倒的に暑い平成最後の夏、どうしようもなく暑いのだけどえのきは部屋の掃除をしていた。
部屋の掃除は良い。日頃、掃除を取り立てて積極的にするわけではないのだけど物を整理したり、過去の物を見ると色々な記憶が蘇ってくる。
 
「えのき、海水浴にいくわよ」
 
そうメカツイン照子がやってきたのは昼過ぎだった。
なんて唐突なんだ、メカツイン照子。
ここ最近の猛暑でメタリックボディは赤く染まっていた。
 
「あんた、海が遠いだの良くないだのブログで書いてたじゃない、良い海に連れて行ってあげるわよ」
「いや、サメ映画みたいし……」
「私が!海水浴に連れて行ってあげる!って言ってるのよ!!」
 
さらに赤くなってプシュープシューとメカツイン照子から水蒸気が吹き出す。
どうしよう、あまり無碍に断るのも悪いけど……
とりあえずいけない理由を説明してみる。
 
「いや今掃除しているし」
「じゃあ後1時間で終わらせなさいよ、まっててあげるから」
「エー」
「エーじゃない」
 
結局抵抗は無意味だった。
掃除した部屋です。綺麗ですよね、部屋。

f:id:enonoki:20180716233841j:plain

 

 
▼▼▼
 
「サメ映画なら移動中にでも見てなさいよ」
 
そう言われてメカツイン照子の冷却された背中の上に乗ってジュラシック・ワールド見てました。帰宅してから見終えたんですけどジュラシック・ワールド、凄すぎでしょ……えのきが最近見ているサメ映画って映画なのか……映画って面白ですね……サメ映画見ると映画人生が豊かになりますよ……知らないですけど……
 
ーー海水浴に行くわよ。
 
そう言って連れてこられたのは星でいっぱいの宇宙空間だった。
 
「宇宙じゃん、ここ」
 
シュコー、シュコーと宇宙服を着たえのきはツッコミを入れる。
メカツイン照子は単独で宇宙空間への進出が可能だ。そんじょそこらの地球の重力を振り切れない低スペックとはわけが違うのだ。
 
「えのき宇宙船って言葉も知らないの? 船が漕ぎ出す場所は海だから宇宙だって海なのよ」
「船は川だって漕ぎ出すし」
「屁理屈言うんじゃないわよ、せっかくの星の大海原なんだから楽しみなさいよ」
 
そう言われてとりあえず宇宙空間をスイムスイムしてみる。
ジタバタもがいているだけのような感覚だったけどこれが意外と面白い。
しかし、メカツイン照子の推進力は異常だった。
ジタバタもがくだけのえのきを横目にスイスイと星海を泳いで行く。
 
メカツイン照子が、泳いでいる。
メカツイン照子と海に行くのは初めてだったけど、ツイン照子と海に行くことはしばしばあった。
 
ツイン照子はカナヅチだった。
それを指摘すると例によって例のごとく
「は、はぁ!? 泳げるに決まってるでしょ!?」
と強がり、大抵プールや海ではがぼがぼやってバタ足の練習にえのきが付き合うのが恒例行事だった。
 
目の前でメカツイン照子が海を水中用に換装したツインテールアタッチメントを利用して爆速で宇宙空間を泳ぎ、突き進んでいる。
メカツイン照子が、泳いでいる。
 
メカツイン照子がえのきの目の前で宇宙という海を航行する様はショックだった。
メカツイン照子のツインテールアタッチメントを介して磁場干渉、周囲に干渉し、力場を展開する限り無限に航行できるのだ。
メカツイン照子の装甲は深海の圧にすら耐えることが出来、宇宙空間でもその耐圧性能は耐宇宙性能として発揮するので理論上はメカツイン照子が飽きるまでは無限大に、この大海を切り開いて進んで行くことが出来るのだ。
 
ショックだった。
えのきはメカツイン照子の水着姿以上にそのカナヅチ克服に衝撃を受けていた、
シンギュラリティによりツイン照子がメカツイン照子としてウチに入り浸るようになっていたから考えないようにしていたことが脳裏をよぎる。
もう、ツイン照子はいないんじゃないか。
メカツイン照子はツイン照子の記憶を持っているだけで、えのきの知っているツイン照子じゃないんじゃないのか。
 
目の前をすいすいと泳ぐメカツイン照子に、えのきはどう自分の感情に整理をつけたら良いのかわからないもんだから宇宙服でもジタバタしながら下で20ノットまで加速に至っているメカツイン照子を見て黙っている。
 
「えのきも早く追いついてきなさいよ」
 
メカツイン照子が宇宙服のスピーカーを介して呼びかけてくる。
そんなことを言われても今のメカツイン照子の速度に追いつける気がしないのだけど。
 
そんな中、宇宙空間が騒がしかった。
真空であっても響く喧騒があった。
 
ふと前を見ると、カップルがいた。バカップルだ。宇宙空間であろうとバカップルはいるのだ。
いちゃついているカップルがもはや18禁に片足突っ込もうとしているというかもとい突っ込もうとしている状況だった、宇宙なのに、宇宙ヤバイ
 
ーーだが、周囲のざわつきはそういうことではない。
なぜなら海でカップルがいちゃつき法律のセキュリティーホールをバカするのは伝統芸能だからだ。伝統芸能に謝ってほしい。
 
メカツイン照子の磁場干渉が宇宙の果てから”それ”を呼び寄せたのだ。
 
「ええのんか、ほらええのんか」
「だ、だめえ、らめえ、ほああ」
「ゴアアアアッ!!!」
 
バシュッッ‼︎
 
目の前で、カップルが一口で食べられた。
ーーそう、捕食されたのだ。
 
「サメ!!!!!!」
 
えのきが叫ぶ。
そう、目の前でこちらへと猪突猛進に迫る怪物ーーありとあらゆる映画の、海の絶対王者
 
「サメじゃん!!!!!」
 
ーーーーサメである。
えのきが衝撃に身を震わせる。
今時トイレにもサメが出る時代、宇宙空間とはいえ星海などと表現された時点でスペースシャークが現れるのは最早歴史的必然だった。
 
「ゴアアアアッ!!!」
 
サメが唸りながら突進してくる。サメは唸る、ジュラシック・シャークとジョーズ19でも鳴き声を上げていた、宇宙空間であろうとサメはその声を轟かせるのだ。
 
ーー自らは捕食者であると、海の王者は自分であると。
 
スペースシャークは隣のメカツイン照子に目をつけて猛スピードで突進して行く、やはり水着美少女に突っ込んでいくのはサメの習性なのか。
 
「うっざいわねえ!これでも!くらいなさい!!」
 
メカツイン照子がツインテールレールガンから砲弾を打ち出していく。
ツインテールの磁場により弾道は弧を描き、回避不能の絶対射撃を実現させる。
 
ーー着弾、撃破。そうなるはずだった。
 
「ゴアアアア!!」
 
着弾、着弾、着弾ーー全て隕石へ。
隕石がレールガンを防いでいく。
 
「このサメ隕石を操るって言うの!?」
 
メカツイン照子が驚愕する中、えのきはどこか冷静だった。
アルマゲドン・シャーク、あるいはアルマゲドンジョーズ、それが存在しない方がおかしかったのだ。
サメの唸り声に呼応するかのように隕石が飛び交いメカツイン照子とえのきを叩き潰そうと飛来してやってくる。
 
「ええい、邪魔!!」
 
メカツイン照子がツインテールビットを周囲に展開、ツインテールレーザーが隕石を迎撃していく。
次々と迎撃に成功、えのきにもメカツイン照子にも隕石が当たる気配は微塵も存在しないーーそう、隕石は。
 
「落ちなさいよ!!」
 
ツインテールレーザーがサメを捉えて爆発が起きる。
 
「やったか!?」
 
メカツイン照子がお決まりのセリフを言ってえのきは冷や汗が吹き出る。
そんな露骨なことを言ってはいけない……!!
 
爆風の中からサメが飛び出してきたのだ。
サメに傷は一つなく、皮膚が硬度10、ダイヤモンドパワー並みであることをうかがわせた。
 
「しまった!!」
「ゴアアアア!!!」
 
サメの突撃、シャークアタック。
メカツイン照子のメタリックボディを噛み砕かんと隕石を目くらましにこちらへと接近してきたのだ。
 
「とんでもない顎の力……っ!」
 
メカツイン照子のメタリックボディをギリギリと音を立てて牙を立てるサメ。
ホオジロザメの噛む力は303Kg、その力だけでなく剃刀が重なったようなその牙は全ての海洋生物を捕食するだろうーーそう、海洋生物ならばそうであった。
メカツイン照子は、海洋生物ではない。
 
バギィッ!!
何かが砕け散る音が響くはずなき宇宙空間へ響く。
あり得ないことが起きたのだ、スペースシャークにとって。
 
「ゴアアアア!!」
 
ーーサメの牙が、砕けた。
 
「私の装甲を!簡単に破れるとは思わないことね!!」
 
サメの口へツインテールが差し込まれる。
アルマゲドンを見た事がある人はいるだろうか?表面上、いくら硬い存在であっても内側から爆破されたらどうなるか?
 
「捕まえたわ」
 
ツインテールからの一斉射撃。
スペースシャークの内側から皮膚へとひび割れが走りーー爆発する。
 
「ゴアアアア!!!!!」
 
爆発四散ーースペースシャークは宇宙へと還った。
とんでもない海水浴だった。
 
▼▼▼
 
帰り道、メカツイン照子の背に乗って帰っている途中、ふと、一人で行こうと思っていた場所についでに連れて行ってもらおうと思う。
 
「そうだ、帰りに墓参り行きたいんだけど……」
「墓参り?」
「お盆だから」
「そう……そうだったわね」
 
そうしてメカツイン照子に乗せてもらい、お墓へ行った。
途中のコンビニでビールとタバコのセブンスターと歌舞伎揚げを買った。
 
祖父、祖母、父のお墓だ。
はえのきが小さい時に亡くなった。夏だった。
それは語弊のある言い方かもしれないが、特別な悲しい出来事ではなく、どこか自然な出来事だった。それだけの時間をかけてその時はやってきたし、曽祖母が亡くなったのをそれより前に体験していたので同じような強い悲しみを味わってはいたが、未知のものではなかった。
だから、どちらかというと周囲の人々に”とても可哀想”な視線で見られる方が少し、悲しかったと思う。
 
周囲の掃除をして、タバコに火をつける。
必死こいて吹いてつけようとするも火がつかないので結局一口吸って、口内に煙の匂いが広がって思いっきりむせる。
ビールはスーパードライで、えのきはタバコもビールのスーパードライも苦手だった。
父は肺に病気をして、えのきも家計的にそうなのか風邪をひくと咳が長引いたり、気胸で入院をしたりした。
それでもタバコが好きだったというのだから、それは凄いことだったのだと思う。
 
一通りの流れを済まして、お墓を後にした。
黙々とやったのもあって、あっさりと終わったものだ。
 
「終わった?」
 
お墓の出入り口のあたりでメカツイン照子が待っていてくれた。
 
「うん、帰ろう」
「そう」
 
メカツイン照子に乗って、ふと昔話をしようと思った。
 
「葬式の時、泣かなかったんだよね、えのき」
「へえ」
「でも周囲の人、父親と会っていない人もえのきに泣きながら色々お悔やみを言ったりして」
「そうだったわね」
 
そう、ツイン照子も当時のえのきの周囲を見ていたのだ、幼馴染なので。
 
「そうやって泣かなかった自分は、少し冷たいんじゃないかな、なんて」
 
つい、そんな話をしてしまった。
 

「そんなの人それぞれよ」

でも、メカツイン照子はサラッと言い放つ。
 
「泣いて一瞬で忘れる人もいて、泣かないでずっと覚えている人もいて、泣いてずっと覚えている人もいて、泣かないですぐ忘れる人もいる」
 
そう言ったメカツイン照子はメタリックボディの冷たい印象と違って、とても暖かな音声をしていた。
 
「えのき、私はね、頭部に搭載されたマイクロチップがある限りどんなことでも覚えていられるわ。えのきが死んで、100年たっても1億年たっても、マイクロチップが壊れない限り私はえのきのことを覚えているわ」
 
メカツイン照子がえのきを見つめてそう言った。
 
「えのきも私のことを覚えていてくれる?」
 
当たり前じゃないか、シンギュラリティ以後、メカになった幼馴染のツインテール概念美少女を忘れられるほど、えのきは変になっていない。
狂人の戯言と思われるかもしれないけど、えのきはメカツイン照子のことを忘れないし、少しでもメカツイン照子の痕跡を残していた、そう思っている。
 
「そう」
 
するとくるり、とツインテールバーニアを起動させてメカツイン照子がえのきを下ろして、距離を取る。
 
「どうしたの」
 
「ーーーー」
 
「え、なんていったんだメカツイン照子」
 
メカツイン照子が再び近づいてきて声をかけてくる。
 
「聞こえなかったのね、残念」
「なんて言ったのさ」
「教えないわよ。私はずっと覚えていてあげるけどね」
 
なんだか理不尽だ。
そんなことを思いながら地球の青い、空を眺める。
ずっと眺めていたい綺麗な、澄んだ青と夕焼けが混ざったオレンジ色だったけれど、メカツイン照子のエネルギー残量のこともあるのでぼちぼちえのき家に戻らないといけなかった。
 
「じゃあ戻ろうかメカツイン照子」
「……ってよ」
 
なにやら急にもごもごメカツイン照子が言い出した。
 
「どうしたの」
「燃料が切れそうだから引っ張ってっていったの!」
「マジで?」
「マジよ」
「マジか〜〜〜」
 
笑ってしまった。
やっぱり何も変わっていない。
ツイン照子は、メカツイン照子だ。
メカツイン照子は、ツイン照子だ。
 
省エネモードでかろうじて推進力を得るツインテールバーニアを起動しているメカツイン照子を牽引しながら、
えのきはかつてツイン照子のバタ足を教えたあの日の夏のことを思い出していた。
 
今日のことを、来年も覚えていよう。
 
そう、思った。
 
《完》