えのログ

人生五里霧中

徘徊してた時に自分だけ金髪和服フランス系海外少女を見れなかった話

えのきの仲間内で『徘徊』とか『深夜徘徊』と呼んで楽しんでいる娯楽がある。


ウィスキーを買ってソフトドリンクで割り、ちまちま飲み歩くのだ。
特に目的地も決めず6時間とか7時間平気で歩く。
酒飲んで歩きながら「『ファイトクラブ』のエンディングは最高だろマジで、ハッピーエンドだろ」とか「働きたくねえ」
とかどうしようもないことばっか話す。
景色がコロコロ変わったり、意外と整った街並みが見れたりして話しても楽しいし歩きっぱなしでも楽しいとかいう娯楽だ。
 
意外と楽しいのでこの場末ブログを読んでくれている方は騙されたと思ってやってみてほしい。面白くなくても責任は取れないけど。
 
徘徊は東京とか千葉とか神奈川でやってて
 「やっぱ景色コロコロ変わって取れ高がでかいから都心がいいよな」
 とか言ってその日は渋谷を歩いていた。

 

楽器屋『KEY』の前を歩いて本屋を横目に歩道橋へ向かって歩いていた時のことだった。
その日はえのきのことを「えのき、姉にならない?(えのきは姉でないしそもそも女性じゃないしその友人に元から姉はいない)」とか言ってくる友人とFGO酒呑童子に9万だか11万溶かした友人と
三人で徘徊していたのだけど、二人ともやたら歩道橋の階段を歩くあたりでテンションが高くなっていた。
 
「なんか凄い二次元強度強かったよね」
「いややばかったすね」
 
とか言っていて、えのきは「何言ってんだこの人たち」みたいな気持ちになるんだけど、
 
「え? えのきさんマジで見なかったの?」
「絶対えのきさんが一番テンション上がって食いつくと思ったのに」
 
みたいなことを言う。
 
どうやら二人が言うには金髪和服フランス系海外少女が親と一緒に歩いていたのだという。
金髪・和服・少女、マジで二次元じみた組み合わせが渋谷とかいう都会のど真ん中を歩いていたのならいつ放送のアニメだよそれ、みたいな気持ちになる。
でもえのきはそんなの全然見てないし、というかそういう妄想を言い出すのは大抵自分なので二人の様子に気味が悪くなった。
 
「いや見たんだってマジで!」
「逆にあんな目立ってたのに見なかったの?」
 
とか言われてマジかーもっったいねええええとか思ったりするんだけど、結局その日も徘徊を続けて楽しんで解散する。
二人の様子がえのきがヴァルキリードライヴマーメイドは本当に傑作だから見て」って言っているのに放置されるような雰囲気で、なんか必死なのはわかったけど信じらねえな、なんて思う。
それはそれとしてヴァルキリードライヴマーメイドはマジで最高なアニメなので、このブログを読んでいる人は是非見て欲しい。
感情がぶつかり合う女の子同士の友情と絆のアクションアニメでずっきゅーーーーんって感じで最高なので、是非。
 

▼▼▼

 
「良くないわね、それ」
 
えのきの家で話を聞いたツイン照子が足を組んだままつまらなそうに言う。
 
「たしかに萌えとか関係なくそういう非日常感見逃したのはミスだったと思う」
「いやそうじゃなくて」
 
ツイン照子はクルクル回る椅子でクルクル回ってシャフト角度みたいな感じでこっちを見ながら話し出す。
なんだツイン照子気取りすぎだろとか思うけど、妙に真面目な雰囲気のツイン照子につい話を聞いてしまう。
 
「二人が見えて、あんたが見えなかったっていうんならそれ間違いなく”あっち側”の子よ」
「”あっち側”?」
 
ツイン照子はよくそういう自分にわからない単語を出して意識高い系みたいに横文字は使わないものの何を言ってるのかわからないことをたまに話す。
 
「ほら、あれあるでしょ、あれ、ぴーしー、とかいうやつの」
「PC?」
「そう、ぴーしー。なんか処理するやつあるじゃない、めもみたいなやつ」
「メモリ?」
「そうメモリ、メモリの関係であんたが見れなかったわけ」
「何言ってるのか全然わからないんだけど」
「”あっち側”ってのはね、この世界と重なりあってるのよ。見えないけど、確かに重なりあっている。
  よく『見える人』だとか『霊感がある人』とか自称したり他称されたりあるでしょ。そういうやつらが見ているのが、それよ」
「ホラーはえのき嫌いなんだけど、パラノーマルアクティビティ2の東京編みて三日ぐらい電気つけて寝る羽目になったし」
「聞いてないわよ。そういう存在ってね、基本的に見えないわけよ。皆、めもりを小さい時とかに使い切っちゃうから 」
 
ツイン照子がいうには幽霊の類を見た、というのはメモリを消費しているようなイメージらしい。
さいころに亡くなったおばあちゃんの幽霊らしき影を見たとする。そうすると見た人のメモリはその分消費される。
多くの人のメモリは1体分程度で、一人の幽霊を見たりしたらもうそれ以外見えなくなったりするんだとか。
思い返すと、えのきが保育園に通っていたころ、「おばけを見た」とか泣いたり、自慢したりする友達がいたりしたけどもしかしたら彼ないし彼女は本当にそういうものを見たのかもしれない。
 
「でもね、全く見られないって辛いのよ。そこに確かにいるのに気がつかれない。目の前を塞いでも通り過ぎられる。それって悲しいでしょ」
 
人混みの中で注目を集めた記憶はえのきにはない。
たぶん別に見られたいとも思わない。
でも、全く人の視線が自分へ向かず、自分とぶつかりそうになっても眉ひとつ動かさないような人混みの中にいるとしたらーー
それは、自分がいなくなってしまったような感覚になるんじゃないだろうか。
 
「だから人が死んだ葬式とかで子供が幽霊を見たとか言い出すのよ。子供のめもりは余っているから」
 
きぃきぃ、とツイン照子の座る椅子から音がする。
結構な古い椅子ではあるけれどツイン照子、最近間食多めだったりするんだろうか。
 
「あんた、失礼なこと考えてるんじゃないでしょうね」
 
とかいって睨みつけられるので話をそらそうとする。
 
「でも何が良くないんだよ、めっちゃレアな二次元的少女見て友達はテンション上がって、
 ”あっち側”の子とかいうのは見られてwinwinじゃん」
「見られなくて、ずっと見られない子は歪むのよ。その視線を独占しようとするぐらいね。
 それに二人も同時に見たんでしょ。 
  ーー強欲よ、その子。それもとびっきりね」
「それで、どうなるって」
「二人がその子しか永遠に見えなくなる、とか、錯乱する、とか色々あるかもしれないわね。
 和服で金髪、海外、ルーツもない日本でさぞ迷走しているんでしょうね」
「どうすんの……それ」
 
カチッ、カチッ、カチッって時計の音が聞こえて来る。
それまでツイン照子と話していたのに部屋の静けさが妙に気になってくる。
 
「どーもこーも、どうにかするに決まってるじゃない。ちょっとあんた、顔寄せなさい」
 
そう言われて酒飲んだ後にツイン照子に顔近づけるのマジ口臭がするとか言われたら泣くから嫌なんだけど、三ヶ月は思い出してへこむんだけど、
みたいなことを思いながら顔を近づける。
せめて口呼吸はしないで鼻呼吸で乗り切ろうとするとえのきの目の前で、
 
すかっ
 
とツイン照子は指パッチンを不発する。
 
「……はい、いいわ。これでオッケー」
「え、指パッチン失敗したのそれ。失敗した?」
「あんたそういうの本当ウザいからやめたほうがいいわよ」
 
イラっとした声に気圧されてまた話題を変える羽目になる。ツイン照子に振り回されている。
クルクル回る椅子に座ってるのはツイン照子なのに。
 
「え、というかなんでえのきが見えなかったわけ。ツイン照子の話じゃむしろ俺も見えらきゃ……」
 
不意にろれつが回らなくなって視界が歪む。
徘徊時にお酒を飲んだからといってそんな大量でもないし、むしろアルコールは抜けきっていたはずなのになんて考える。
 
「決まってるじゃない。あんたは私が■■■■■■■■■■■■■■■■ 」
 
朦朧とした意識の中、ツイン照子が部屋を出て行くのが見えた。
 
▼▼▼
 
翌日は昼まですっかり寝て、寝すぎて眠いみたいな状態だった。
ツイン照子はつまらなそうに居間でコーヒーに砂糖とミルクを入れてコーヒーブレイクを気取っている。
ブラックも飲めない弱者め、そう一度煽ったらマジで蹴られたので言わないでえのきはえのきで寝起きの乾きを何とかしようと水を飲む。
 
「片付いたわよ」
「え、何が」
 
寝起きでぼけっとした状態だったもので適当な返事を返す。
 
「覚えてないならいいわ。さっさとご飯ぐらい食べたら?」
 
そう言われてその話題はもうおしまいになる。
後でそういえば”あっち側”なんてことをツイン照子に聞いたな、なんてうっすらと思い出すんだけど、
もう終わった話になってしまったのでえのきは聞けずにご飯を食べて、その日1日ほぼ布団でグーダラして過ごす。
 
友人二人は特に心霊的なことに遭遇したとか聞かないし、もっと言うなら仕事をしなくてはいけない社会が怖いようだったし、
働くってマジサイテーなだななんて振り返っても、今考えても思う。
 
▼▼▼
 
でも、たまに人混みを見ると思い出す。
“あっち側”の人がえのきの視線の先にもいるんじゃないかと。
ただ気づかないだけで、そこに確かにいて、誰かに見てもらうのを待っているんじゃないかと。
 
金髪和服フランス系海外少女は、今のところ見ていない。
 
《完》