えのログ

人生五里霧中

『天気の子』をまた見た

 

天気の子

天気の子

  • 発売日: 2020/03/04
  • メディア: Prime Video
 

 

久しぶりに見たんだけどやっぱ面白いですね。

割と当時見に行った時にびっくりするぐらい響いてしまったんだけど、結構時間経って色々「そこまでノレなかった」的な感想とかも読んだ上だったのでちょっとそこら辺も意識して見たんだけど普通に前回見た時とおんなじような場所で泣いてしまった。

雑感。

 

 

・『光の水溜り』って言葉選びが面白いな……と変な関心をしてしまった。なんというか自分は絶対思いつかないなーと(プロなんだからそりゃ発想が違うのは前提だが……)雨が降り注いでいる他の場所の中で、ぽっかりと日が差している場所を『水溜り』と表現するのって難しくないですか? なんていうか他の雨の降っている場所に水溜りができるというイメージに引っ張られて出てこない。映像からイメージを作っている、とかそういう発想の仕方なんだろうか?

 

・新海監督はプロットをグラフにしているっぽいけど、話の起承転結みたいの意識しながら見ると退屈させないようにあれこれやっていて面白かった。

 

『天気の子』DVD/BD発売記念で、もう一つお蔵出しを。ネタバレ全開ご注意。プロット段階での物語構成表です。『天気の子』では脚本作業前に、このような表を作りながら物語の構成を練っていきました(完成した映画とは一部異なっています)。懐かしいなあ。 pic.twitter.com/X4EA6SU3Ln

新海誠 (@shinkaimakoto) 2020年5月27日

 

・グランドエスケープのあたりがめちゃくちゃに盛り上がるけど、序盤の必要だけど本筋からするとダレる部分というかK&Aでのアシスタントの日々だとか、晴れ女のお仕事での盛り上がりだとかをMV風の映像を挿入したり花火のシーンを入れたりで視覚とか聴覚で盛り上げてくるな……と。映画での体験感覚をハックしているというか、脚本だけで出来ないテンションの補完をしているのがよかった。気持ちいい。

 

・陽菜さん周り、記憶よりも結構元々福祉が介入しようとしてるのなーと思ったり。序盤で帆高が家を尋ねる時もなんか大人がきてたりするし。なんというか初見時「社会だとか世界が全然助けてくれん」みたいな感覚からのカタルシスもあったんだけど、そこらへんはクライマックスの気持ち良さでちょっと見誤っていた部分だなと。全部が間違っているというよりも「社会の福祉の範囲からこぼれ落ちてしまった自分たちをどうするか」みたいな話かもなーと。てかそこらへんから『キャッチャー・イン・ザ・ライ』か。なるほど。

 

 

村上春樹訳も買ったはずなんだけど手元に野崎訳しかない。そのうち読み返すかなぁ。

 

・社会をすっぽりと抜いた物語というよりも、社会からこぼれてしまった自分たちはどうすればいいか、みたいな視点の話かなぁと。意図的に帆高とかのバックグラウンドを描いていないのでアレなんだけど、決して全員生きられないわけじゃなくて、周囲の人間も悪意に満ちている、っていう話でもないよなと。ただ自分たちにとっての(実感としての)真実の幸福像みたいなものを社会は与えてくれなくてどうやって生きていくかというか。

 

・リーゼントの高井刑事とかも帆高にとって物語上の立ち塞がる壁というか、こう敵っぽく見えるけど割合態度は悪くなりつつも子供を保護しようとしていたり、帆高を万が一に撃つ事態になることを嫌がっている節があったりと悪人じゃないんですよね。というか家出中の子供が銃とか持ってる疑いとかあって「一緒にいていなくなった女の子が空に消えた」とか言ってたら色々警戒するだろ……ってのはあるしな……普通に側から見たらクスリ決めてるように見えるわな……スカウトのチンピラを善人というのはいやだけど、そんな人間にも結構まともそうな家庭描写があったりと多分明確な100%の悪人とはしていないなと。

 

・なんというか人々の「より良く生きたい」みたいな願いとか職務とかがあって、そうして営んでいる場として東京が描かれているのかなと。

それで帆高も陽菜さんもその辺からこぼれ落ちてしまっているんですよね。自分たちの持つ願いみたいなものが社会と噛み合っていない。そこの割り切れなさは子供、ではあるんですけどじゃあその願いって無視してしまって良いものなんかなーという感覚はある。

 

社会、世界に対してある種の無力感が作品中で漂っているんだよなぁと。須賀さんにしても夏美さんにしてもそう。適当そうな須賀さんは実は結構ちゃんとしている部分があるけど娘と思うように会えない、奔放そうな夏美さんは就活で奔放じゃない顔をしている。みんな自由そうでいながら自由でいないというか、自分を少しすり減らしている。

 

・そういう感覚は自分自身も持っていて、働いていたり社会で生活を送っているとどうやっても割り切れない感情みたいなものが溜まっていく。だけどそれって須賀さんの言う「優先順位」みたいなものを考えるとどうしても後ろ回しになっていく。仕事で無理にニコニコするの嫌だなぁと思っていても自分の死守したい生活とか幸福があるとそこは折れるしかないというか。それはかなり無力感がある。

 

・天気の子に色々なルートが幻視されるのって、そういう色々な人々の情報が小出しというかフレーバー的に出ているからのもあるよね多分。ちょっとした描写にその人の内面の葛藤だとか人生を見てしまうから、そこに焦点を当てた物語を見たくなってしまうというか。

 

・話がズレた。でもその最後の一線というか、「優先順位」が一番高いものがすり減らさないといけない、犠牲にしないといけないものだったらどうすんだよ、ってとこが結構天気の子の選択の部分かなぁと。

 

・そういう風に色々とすり減っていた、すり減らしていた、これからもすり減っていくであろう人々がそういうものに全力で反発して大切なものを手放さないように走る帆高に委ねていく、みたいなところが見ている自分の心を強く打つんだろうなと。

 

「オタクの好きなやつじゃん!」みたいな感想がかなり公開当時観測して、自分も似たような感覚はわかるんだけど、実際はもっと間口広く作られているというか、現代社会で生きていてすり減っていない人は全員、とはいかないけどかなり多いんじゃないかなと。(なんていうかしかも今のオタクじゃなくてちょい古いオタクな気がする)だからこそそういうすり減り、やりきれなさみたいなものを感じている人に強く刺さる。そこに反発して手を伸ばそうとしている帆高に感情移入する……みたいな。いやこれは自分の話だな。

 

・とはいえ従来の規範とか社会をある程度、意識しつつ中指立てる精神は若干感じてちょっと面白かったのが「帆高走れー!」のあたり。よく社会によって決められた道を歩んでいる、「正しい道を歩んでいる」ことをレールの上の人生みたいに形容するけど、帆高が思いっきり社会的にルールをぶっ壊しながら、現実に壊れたレールに沿って走っているところはそういったの言葉の上で遊んでいる感覚がして面白い。「うるせー!これが!こうしていることこそが俺の正しい道じゃい!」みたいな……

 

 ・帆高たちの空のくだりはそこの気持ち良さを無限に増幅していくのでカタルシスのコントロールがうますぎる。やっぱり泣いてしまった。俺は涙腺の弱いオタク……

 

・とはいえ社会に中指立てたようでちゃんとそこら辺考えているんだろうなと。もちろんそのうえで「陽菜さん取り返すぜ!」とはやっているんだけどエピローグで、帆高は実家に戻って三年過ごしてちゃんと東京に出てこれるようになるプロセスを踏んでいて多分それは陽菜さんも同様で物語の最初に東京にくるのとラストで東京にくるのでは違うんですよね。一応社会に属している上で東京に来ているというか。

 

・須賀さんたちが「この世界は元々狂っているんだから気にするな」といった趣旨のことを言うのはラストのカタルシスへ向けて秀逸だよな〜〜〜〜〜〜〜と感心してしまう。もちろんその言葉は優しさや善意で、実際その言葉をそのまま受け取ることもまた救いであるんだけど、それは晴れ女の仕事での人々の祈りや、それを叶えたことや、自分たちの決断そのものを無に帰す(あれら自体勘違いだった、世界はもともとそうだったと放棄することになる)ことでもあり、それを「違う!」と言い切らせるのは凄く気持ちが良い。自分たちの祈りをありとあらゆる罪を(自分たちの意識の上で)背負うとしてもそれでもそれを引き受けるというか。

 

・この責任のためにエピローグでは年数経たせて「大人」としたのかなぁ。なんて思ったりする。

 

・とはいえドラマチックな決意のあとも人生は続くわけで、ある日ふとした時にその自分たちの決断に罪悪感が強くなる瞬間もあるかもしれない。そんな時に須賀さんたちの言葉は(それを肯定する否定するは別にしても)、言われたことが帆高の救いになるだろうなぁなんて考えてしまってしみじみ感慨がある。

 

・なんというか社会に中指を立てる瞬間はありつつも最終的にそことの調和……というのはいいすぎだけど、決してそこで投げっぱなしにしていないというか、それを単純な対立構造に落とし込んでいないなというのは改めて見て感じたり。(それは見る人のノイズを減らすためのエクスキューズでもあるかもしれないが)

 

・ところで須賀さんが猫のアメを手放せてないのはめっちゃいいですよね。須賀さんにとって帆高と重ね合わせるところで、それを捨てられないというところに須賀さんの内面が見えるというか。

 

 

ざっくりこんな感じ。やっぱりめちゃくちゃ好きですね。

いやー改めて面白かった。