えのログ

人生五里霧中

『ヘレディタリー/極道』を読んだら思ったより刺さってしまった

 

 

 

 色々面白い漫画系のブログを書かれていたり、よく聞いてるネットラジオ人生思考囲い』にも出ていて個人的によくチェックしているピエール手塚さんコミックビームの8月号で読み切りを載せているということで買って読んでみたところ、面白いのと妙に刺さってしまったので簡単に感想を。

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 ちなみにこれは最近のじんしこで好きな回です。読書感想文のあたりの御三方のトークの加速っぷりが面白い!

 

 

 ヘレディタリー/極道、いかにも極道物って感じの導入なんですが、若頭になったものの周囲がいまいちついてこない手塚が挨拶回りで立ち寄った定食屋でやたら圧の強いババァに接客され……といった感じの話。

 終盤から怒涛の超理論で笑ってしまうのですが(細かくは読んでみて欲しい)妙にその理屈も読んでいくうちに引き込まれたり、響くものがあり思っていた以上に読み返してしまった。(電車に乗っていて、5分ぐらいで読むつもりで読んだらじっくり読み返してしまった)

 

 新若頭になった手塚はどうも真っ当な道にいたにもかかわらずヤクザになった、というヤクザの中でもちょっと異端な存在で、それ故か場の空気を読み過ぎて我を通すことが下手、という造形なんですね。それゆえに若頭としては舐められる。

 何というか極道という非日常漫画(といってもメインは定食屋とかからなのでヤクザの日常に近いのか?)ではあるんですけどこの世知辛さがなんか共感してしまう。

 

『強さとは、我が儘を通す力』刃牙とかで語られましたが、それが手塚に欠けているもの、ということだと思うんですよ。ある種最適解を導き出そうとして、落とし所を探ってしまうからこそ人のわがままみたいな不合理性をコントロールできない、それが暴力となって表出する=我を通せないので弱い!みたいな。

 

 これって実生活でも自分に感じてしまうんですよね。いや、暴力は振るわないけど。

 

 何というか会社とかで「上手いこと生きていきてえ〜下手こきたくねえ〜」みたいな気持ちだったり、自分の理屈以外にも相手の立場とか、社会にとってあるべき姿とか、ルールとか、マナーとか、色々考えていると「でも相手にも事情があるよな」とか「この腹立たしさは自分の独りよがりだよな」とか考えてしまって我を通せなくなるんですよね。文句として言った方がいい場面でも文句を言えなかったり。

 

 作中で手塚は支配の手段として暴力を振るいますし、その点で現実の俺とは全く違うんですが、我を通せなかったから黙る/暴力を振るう、というのは『強さとは、我が儘を通す力』という観点では大した差がないんですよね。

 そんなことを考えていたらなんかつい読み込んでしまった。

 

 手塚が終盤で身につけるある種の『力』なんですが、めちゃくちゃギャグになっていて笑える展開でありながら、そんなことを考えながら読むと妙に面白い様が見えてきました。

 おそらく手塚は『真っ当な道』にいたあたり会社員とか経験してるんじゃないかと。そうでなくても何かしらの上下関係、いわゆる『社会』をやっていたのではないかと思うんですね。ここでいう『社会』はなんというかめんどくさい会社の政治みたいなあれです。

 そこから外れて極道というアウトローになった。ただ、手塚はそこでも『社会』をやってしまうんですよ。そしてそれで若頭になってしまう。

 反体制がいつの間にか体制側になってしまう、というのは現実でも往々にしてあったり、進撃の巨人とかでもそういう順番が描かれていましたが、

 んで、部下、後輩といった下としての生き方と上司、先輩という上としての生き方ってこの『社会』の中だとどうも違う気がするんですよね。

 下であるうちは和を調整したりして上の承認を得ることが何より強いスキルですが、上になった瞬間に『強さとは、我が儘を通す力』が一強の必須スキルになるというか。もちろんそれだけではうまくいかないことも多いと思うんですが、デフォルトでその部分の強さがないとやっていけないところが出てくる。

 手塚が行き詰 プレビュー まってるのってそこのギャップな気がするんですよね。だから先代の言葉に従っても、それは実質的に「上の言葉に従う下の人間」としての振る舞いになるのでむしろ弱くなる。

 そこで何を力にするか、となる。

 その『力』ってのが面白いなと。(本当は直接的に言ってしまいたいんですが、ネタバレもなんなので……)手塚が身につける『力』の元の存在って上で書いていた『社会』の外にいるんですよね。上司がいるわけでもない、周りとの調整でなんとかしているわけでもない、ただただ『我』によって生きている存在。

 手塚の「こうしたいな」を無視して、「これにしな」と押し付ける存在。

 その『我』はフィクション内においてある意味ヤクザより厄介なんですよね。現実にも遭遇しそうな嫌さというか。

 もちろん暴力では手塚が圧勝するような存在でしょう。だけど、『強さとは、我が儘を通す力』という観点では負けてしまう。なぜか?

 それはもう既に既存の『社会』の様式が崩壊しつつあるというのもあるんじゃないかと。これは完全に飛躍なんですが終身雇用とかが終わりそう、とかそういう話もあって会社の上下関係とかの重要性ってどんどん薄れている気がするんですよね。少なくとも昔みたいに恫喝して従えさせたり、上司の酒だから無理に飲まないといけない、みたいな権力性は消えているわけですよ。人間関係のあり方もどんどん変わっていて、仕事よりもプライベートが力をつけている。

 そうなった時にもう「会社(若頭)がこう言ってるからこうしろ」は機能しないんですよね。

 それが作中でも指摘されている古い体制の限界なんじゃないかなぁと。

 だからこそ、プライベート空間だけで生きてきたであろう存在から『力』を学ぶのかなぁと。

 そういう力、自分も持たないとなぁ……なんで会社だとつい自分を殺してしまうんだろうか……なんであれこれ考えて身動き取れなくなるんだろうか……とか考えるとめちゃくちゃ読み込んでしまって……いやでもこれギャグ成分多めの(多分)漫画ですからね!?!?!?!?!?

 

 と、なんか妙に自分の最近考えていることとかに響いてしまって読み込んじゃいました。面白かったです。(自分の言葉が目の前の相手にどうやって解釈されるか云々のモノローグが特に良かった。身に沁みる。それをやるせいでインターネットでもどんどん喋ろうとすることが減っていくことが悩み)(どうすれば)

 

『ヘレディタリー/極道』そんな感じで面白かったです。

 

 

 

 

 以下、せっかくなのでピエール手塚さんのブログで好きな記事をいくつかあげておきます。

 俺はインターネットの面白い記事について話したいけど微妙に身の回りが話題にしていないのもあって話題に出さない仕草が骨身に染みてしまっている人間……こういう感想の時ぐらいせっかくなので感想の感想を書きます。

 

mgkkk.hatenablog.com

 

 この記事本当に笑ってしまったので好きです。こじつけ力が『ヘレディタリー/極道』に通づるところがあると思います。どう考えてもおかしいはったりをただただ淡々と理論づけして語られるのが自分はめちゃくちゃ好きです。自分でもやりたい、と思うんだけどラジオとかで話すと感情が乗りすぎて声が大きくなり「ちょっと何言ってるかわからない」とよく言われます。僕だけがまともなんだよ。

 

mgkkk.hatenablog.com

 

 エアマスターを読み返したくなるし、エアマスター読んだあとにまた読んで自分の感想との差分を探したくなる的な記事。こういうじっくり読み込んだ方の感想読むのが好きでインターネットで感想巡りが好き、みたいなところがあるんですよね。

 

mgkkk.hatenablog.com

 

 最近「かんかん橋をわたって」を読んで、異常な話運びに笑いつつも、漫画力に引き込まれ、そして虐げられていた妻たちの団結によって「見えなくなっていた存在」が見つかるラストが美しい漫画でめちゃくちゃ興奮したんですが、そういった興奮の要素を精密に書かれている記事で読み応えがあります。

 

 

 全然話がずれますが、トリッキーな切り口から、社会との摩擦を描きつつ、そこを超える話になる、とい点で自分は『淫獄団地』に期待しているんですがどうなんだろう。いや、自分はかなりB級変態人妻が社会=団地を乱す存在でありながら団地で疎まれ排斥されている存在というのがかなり深刻によんでしまうんですよね。

 

 あとじんしこの好きな回いくつか……じんしこについて語りたいけど語る相手いないから……

 

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 まぁ色々辛かった騒動のちょうど最中?ぐらいの時にアップされた回。かなり冷静に作者との距離だったり、感想について話されていて炎上にしんどくなっていた自分としては興味深さ的な面白さだったり「確かになぁ」と冷静になる部分も。みなさんヒートアップするよりも冷静にこの問題について真面目に問題を解きほぐすように話してくれていたのが当時の荒れた(自分含め)ネット野中で癒しになった。

 

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 シンエヴァ回。中野さんの語りも勢いがあって面白くて好きです。自分はつい初回で見た時庵野監督と接続して見てしまうところが多くて (自分はコンテンツ全般作り手の影を見ることが好き。そのきっかけがエヴァだからエヴァは余計に)ドキュメンタリーとか見て、それだけなのもよくないよな〜は思っていたんだけど、手塚さんがそのあたりにも触れていたのが「なるほどなぁ」と。まぁ、どうしても自分はそういう作り手のテーマとかについて考えて気持ちよくなってしまう節があるのでやめられないんだけど、それ以外の視点でもエヴァ楽しみたいよな〜とはちょくちょく思うの、こういう話聞けるのが良かった。

 

 

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 現在進行形で熱い映画、劇場版スタァライトについての回。「そうそうそれそれ!」というところからテーマにも触れていて聞き応えがありました。スタァライトの映画めちゃくちゃ勢いがあるんですよね、今。実際すごい良かった。

 

 そんな感じです。漫画の感想にかこつけて話したい話書きまくっちゃった……